私は建築家であると同時に、ファイナンシャルプランナーでもあります。
戸建て住宅の設計をしながら、お客様のお金に関する相談にも乗っています。お金とは住宅ローンだけでなく、家族のライフプランやファイナンシャルプランなどです。
この記事では「建築家+ファイナンシャルプランナー」という新しい働き方に至るきっかけと、そのメリットを書いてみます。
きっかけはお客様のある一言
建築家として独立してすぐに、最初の戸建住宅を設計する機会に恵まれました。そのお客様は私と同年代で、お子様一人とご夫婦の3人家族でした。
土地をすでにお持ちだったので、ご要望を伺いながら、建物の設計に入りました。
何度も打ち合わせを重ねて、無事に設計が完了し、工務店に依頼した見積額も妥当でしたので、いよいよ工務店との工事契約をすることになりました。
そこでお客様の奥様より、資金計画についてご相談されたのです。
自分たちの貯金を目一杯使ってなるべく住宅ローンの借入額を減らすべきか、住宅ローンを年収から算出される最大額まで借りてなるべく貯金は使わないべきか。
その時私は「住宅ローンについては銀行に相談して下さい」とお答えしました。
住宅ローンに関する知識も不足していましたし、なにより建築家である私にとって住宅ローンや資金計画の相談は、自分の守備範囲外であるという認識でした。
そのように私がお答えしたところ、奥様より「建築家にはお金の相談は出来ないのですね。ハウスメーカーだったら相談に乗ってくれるのに。」と言われてしまったのです。
私はお金についての認識と知識不足を指摘されてしまい、とても恥ずかしい気持ちになりました。
この出来事がきっかけで私は「建築家は住宅という建物を設計するだけでなく、建物を建てるために必要なお金に関するサポートもすべきではないか、それにより本当に家づくりをサポートする存在になれるのではないか」と認識を改め、お金や住宅ローンに関する知識を勉強し、ファイナンシャルプランナーになったのです。
建築家はなぜお金の相談に乗らないのか
今でこそ私は「建築家は建物の専門家であると同時に、お金についての知識も必要である」と思っていますが、一般的には建築家はお金の相談に乗らないことが多いのです。これはなぜでしょうか。
1つ目の理由は、建築家がお金の知識を得る優先度の低さです。
建築家は一級建築士などの国家資格を持つ建物の専門家であり、建物を設計する知識や経験を磨くことに、とても誇りと情熱を持っています。
建築に関する法律や、設備、素材などの知識を、日々アップデートしているのです。そのため建物以外のお金に関する知識を得ようとする優先度が高くないと言えます。
2つ目の理由は、建築家が持つお金に対する認識不足です。
建築家はクライアントから求められた要望に対して、最高の建築デザインで返そうと努力しています。
それをお金(予算)に限りがあるため「~は出来ない」などと言うことは、最高の建築デザインを提供できないことを自ら言うことになるため、消極的になってしまいます。
なるべくお金に触れないほうが、建築家としての価値を守りやすいとも考えてしまいがちです。
建築とお金の両方を扱うことでこんなメリットがある
上の2つの理由により、お金の知識を得ようとする建築家が少ないことが分かります。もし建築家が建築とお金の両方を扱うと、建て主であるクライアントにとって、どんなメリットがあるでしょうか。
まず建物の設計を進める最初の段階から、建築家がお金の相談に乗ることで、土地や建物、諸経費などを合わせた全体予算を把握することが出来ます。
それはお客様のライフプランから算出される住宅にかけても良い予算かもしれないし、お客様の年収から借りられる住宅ローンの上限かもしれません。
建築家が全体予算を把握することで、例えば土地探しから行う場合には、土地にいくら、建物にいくらと、予算のバランスを取ることが出来ます。
もう1つは、建てる建物の資産性をより考慮することが出来ます。
戸建て住宅を建てるために、一般的には35年などの長期の住宅ローンを組むことになります。
別の見方をすれば、何千万という融資を受けて土地と建物を購入し、35年かけて返済していき、35年後に土地と建物が自分のものになる、という資産を形成しているとも言えるのです。
もし建築家が建物についてだけ考えていれば、完成した瞬間の出来栄えを最優先に考えがちですが、お金を扱うことで、35年という長期間における建物の価値を認識せざるを得なくなります。
35年後に本当に価値が残る建物はどういうものか、クライアントが資産形成をする方法の1つとしての住宅設計となるのです。
建築とお金の両方を扱う建築家と家づくりをすると、各家庭にふさわしい建築を得られるだけでなく、ライフプランに合った資金計画も立てられた、建築とお金がデザインされたものを手に入れることが出来るのです。